告白

「京にぃ」
「あれっ、どうしたの? 珍しいね、突然僕のアパートに来るなんて。そうだ、今日卒業式だったよね。卒業おめでとう」
「ありがと。……あのね、京にぃに話、あるの」
「なんだか込み入った話みたいだね。どうぞ、入って。今お茶いれるから」

「あのね、京にぃ!」
「うん」
「私は……あなたのことがずっと、ずーっと好きでした!」
「……っ! ちぃちゃん」
「初めて会ったときから、私の世界は京にぃばっかりで……小さい頃いつも側にいてくれて何でも一緒にして、すごく楽しかった。ただ一緒にいるのが嬉しいって思ってたけど、いつのまにか京にぃが一番大好きなんだって気づいたんだ。お兄ちゃんみたいな人として、じゃなくて、男の人として付き合ってほしいって」
「……ちぃちゃん」
「返事を、お、お願いします……」
「……うん」
「…………」
「ちぃちゃん?」
「あ、あのねえ、京にぃ。『うん』じゃほんとの返事じゃない。だから、ダメだとか好きじゃないとかはっきり言ってよ!」
「あれっ? いや、だから付き合おうねっていう意味で“うん”って言ったんだけど」
「あ、そうなの? なーんだ………………ええーっ!?」
「どうしたのそんなに驚いて」
「だ、だって京にぃにOKしてもらえるなんて、思ってなかったし……正直言って振られるつもりでここに来たのに」
「……やっぱりそうだったんだ」
「京にぃ?」
「さっき『好きでした』って過去形だったもん」
「え、そうだっけ」
「加えてちぃちゃんはすぐ顔に出るから」
「うっ……」
「どうして、まだそんな泣いちゃいそうな顔してるのかな」
「だって……夢みたいでなんか信じられなくて。……それに」
「それに?」
「京にぃには……好きな人、いるんじゃないの」
「それは、僕の中で……なんというか、うん。こう、おさまるべきところに収まったんだ。だからちぃちゃんが気にやむことはないよ」
「収まったって……よくわかんないよ京にぃ」
「彼女に大切な存在がいるから、安心してるんだ。僕がいなくても大丈夫だって」
「……そんなのって、つらくないの」
「うーん、つらいっていうよりは、よかったねって思えるようになったんだ」
「……京にぃはすごいね。私、ぜんぜんそんなこと思えない。つらくて苦しいってことしか頭になかった。自分で自分が嫌になるくらい醜い気持ちばっかり出てきたよ」
「ちぃちゃん…………苦しい思いさせてごめんね」
「京にぃが謝ることなんてないよ! 私が勝手に好きだったんだもん」
「ちぃちゃん。僕はね、ずっと君の気持ちを知ってたんだ」
「え?」
「最初はちぃちゃんは思春期に入ったんだ、大きくなったんだなあって感慨があってね。でもいつか僕なんかじゃなくちゃんとした他の同年代の男の子を好きになると思ってた」
「京にぃ……! なんで、そんな、じゃあ最初からバレバレだったってこと?」
「言ったでしょ。ちぃちゃんは思ってることがすぐ顔に出るって」
「うわ……は、恥ずかしい…………でもなんで黙ってたの?」
「……ずるいことしてたんだよね、僕。ちぃちゃんの気持ちに応えられなかった。だから今まで通り仲のいい兄妹のままでいるために、知らないふりしてた」
「私だってわかってたもん……京にぃが私を妹としてしか見てないこと。振られるのが怖くて告白もできなかった。片思いのままだったら、京にぃを好きな幸せな気持ちでいられるってさ、逃げてたんだよ」
「もういいんだ。逃げなくてもいいんだ。もう君から目を逸らさない」
「京にぃ……やだ、離して! 同情なんかで付き合ってほしくなんかない!」
「それは違うよ、ちぃちゃん」
「京にぃは大好きだけど、女の子として好きになってもらえない人と付き合うなんて悲しいだけだし、京にぃに無理にそんなことさせたくないよ。お願いだから、はっきりダメだって言って。じゃないとこの先も京にぃに未練残しちゃうよ。もう叶わない片思い続けてくの無理っ……!?」
「……これじゃ、ちぃちゃんを好きだっていう証明にならないかな」
「ききき、キスが!?」
「うん」
「きょっ、京にぃなんでこんな」
「だって、ちぃちゃんに信じてもらえないから」
「ええっ!」
 ぽかんと口を開けて脱力したきらを京輔は優しく抱きしめた。
「僕はね、ちぃちゃんを幸せにしてあげたいって思ったんだ。今まで待たせちゃった分も含めてさ」
「京にぃ……」
「君の全てを受け止めたい。過去の……僕たちの親のことも含めて、これまでのことも、これからのことも。ずっと、君の側にいて受け止め続けたいんだ。そうしても、いいかな?」
「……う……」
「ああ、泣かないでちぃちゃん」
 自らのポケットをさぐるが目当ての物は見つからず部屋を見回すが、手を伸ばせば届く位置にティッシュはない。京輔は服の袖できらの顔をそっと拭った。
「あは……昔と同じだね、京にぃがハンカチ持ってないのって」
「……面目ないなぁ」
「でも、京にぃらしくてホッとした……」

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